ランサーの呼び声に応えるように、地の底から浮かび上がった魔城。それを恰も舞台背景のように背負い、携えた槍をマイクスタンドのように地に突き立て――絵本にある悪魔のような翼を生やしその上に飛び乗った『血の伯爵夫人』は、高らかに歌い上げた。

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――――ッ!!!」

それは歌声という名の、荒れ狂う大嵐。天馬に跨ったライダーでさえ、余波を嫌って上空へ退避したほどである。
…まず至近距離にいた霧島の眼鏡が割れた。次いで衝撃波は血管を破り、最後に4基の主砲塔が破裂して、霧島は耳と鼻から血を吹いて倒れ伏した。
距離をとっていた他の艦娘たちも無事では済まなかった。榛名は音圧に弾かれ数メートルも地面を転がった。既に上陸していた空母、軽巡、駆逐艦たちは両耳を押えて耐えたが、軽巡と駆逐艦の備えたソナーは反響で無残に破壊された。
そして――

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大淀「きゃあっ!?」
初雪「ぴっ!?」
望月「あうっ!?」

(ガガッ!)

通信装置を通じて音声で状況を確認していた大淀らも、両耳を押えてうずくまった。

球磨「どうしたクマ!?」

輪形陣で警戒していた僚艦の球磨・多摩・伊勢・日向・明石が駆け寄る。見ると、大淀の手に持ったヘッドホンが煙を立てている。

大淀「通信装置が…!今の『歌声』でやられてしまったんだわ…明石さん、直せます?」
明石「もちろん!――と言いたいとこだけど、これはちょっと時間かかりますねえ…」

初雪「聞いた?『バートリ・エルジェーベト』って…」
望月「うん、まさか本当に『血の伯爵夫人』が出てくるなんて…」
多摩「それってどんな奴なんだにゃ?」
望月「うーん、『鉄の処女アイアン・メイデン』って知ってる?」
多摩「あの痛そうなやつにゃ?」
望月「そう。あんな感じの拷問器具をたくさん作って、若い女を無差別に捕まえて拷問していたっていう大量殺人鬼だよ。吸血鬼やドラゴンの血を引いてるなんて言われてたけど…」
初雪「ホントに、『リュウノケシン』だったなんて…!」
球磨「心配だクマ…明石、早く直すクマー!!」


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