エ「……ふぅ、ちょっとやりすぎちゃったかしら?死んでたらゴメンね~?」

「「……」」

マイクスタンドから飛び降り、“ステージ”から“観客席”を見渡す。霧島は白目を剥いて倒れ、周囲の艦娘たちは両耳を押えてうずくまり…立っている者はいないように見えた。

エ「やっぱ、この私の美声に耐えられる者なんて……え?」

――いた。“最前列”に。両耳から血を流しながら、両目から涙を流しながら、彼女は立っていた。両の手は耳を塞いでいない。まるで拍手をするように繰り返し打ち合わされている。顔は苦痛に歪んでいない。まるで喜びに満ちたように、満面の笑みを浮かべている。

エ「嘘――!」

那珂「すっっっごかった……!!」

エ「何で…何で私の“歌”を受けて立っていられるの…!何で…!!」

那珂「だって…那珂ちゃんはアイドルだから…!そして…貴女も“アイドル”だから…!!歌を愛してるって分かるから…!!最後まで聞かなきゃ失礼だもん!!同じ“アイドル”として!!!」

エ「“アイドル”として…?」

那珂「貴女の“歌”…届いたよ…胸の中にじ~~~んと来て……すっっっごく、感動した…!」

エ「私の…“歌”で…?」

那珂「そうだよ……ちゃんと、最後まで…届いたよ…!!」

エ「…“最後まで”……う…そ……私…はじめて……!」

そう、初めてだった。彼女は…エリザベート・バートリーは一度として、自分の歌を誰かに“最後まで”聴かせたことがなかった。彼女の歌を聴いた者は例外なく、聞き終えるまでに逃げるか、倒れるか、死ぬかのいずれかだったからだ。

エ「子リス…アナタ…!」

那珂「えへへ、今度は、那珂ちゃんの番だよ…!ちゃんと“最後まで”聴いてもらうんだから!」


_vs_magus_5-3