山城の警告に弾かれたように注目する面々。そこには、かつて扶桑がみた『黄金の英霊』が夜の闇の中で一人立っていた。

扶桑「貴方…あの時の…」
利根「あの時?…まさか、お主がカルナか?」

カ「オレの名を知っているのか。ならば話は早い」
カ「――――――ここは退け。お前たちでは何千、何万集まろうともオレを倒すことはできん」

莫迦にしているわけでも、侮っているわけでもない。ただ純粋な事実の羅列。だからこそ、この言葉は重かった。

扶桑「それはできません。この戦い、私達は一歩も引くことはできないのです」

カ「敵わぬと知ってもなお戦いに身を投じるのか、(フネ)の子らよ。なればこそ―――全力を以て相手をする価値がある」

その言葉とともに、かつて雷神インドラより鎧と引き換えに授けられた神をも滅ぼす光の槍が出現する。

カ「行くぞ、艦娘達よ。ここがお前たちの死地と知れ」

扶桑「皆、行きなさい!山城、最上、三隈!迎え撃つわ!」
「「「はい!」」」

橋より飛び降りるランサーから離れる扶桑たち。ランサーはそのまま水の中に落ちると思われたが―――

「「「「ッ!?」」」」

落ちるどころか、まるで翼があるかのように縦横無尽に飛翔している。無論、ただの英霊であればこうはいかない。
ランサーの持つAランクの『魔力放出』スキル。これにより、最大時速五百キロほどのスピードで空を駆けることができる。

扶桑「戦場を移動させます!可能な限り冬木大橋から離れるのよ!」

振るわれる豪槍を必死で回避しながら扶桑は叫ぶ。扶桑もまた、この英霊について文献を使って調べていた。

曰く、その身に纏う黄金の鎧は神々の力を以てしても破壊が困難であること。
曰く、数々の偉業を達成したクリシュナに「アルジュナのあらゆる武器や私の戦輪でも傷つけられない」と言わしめたこと。
曰く、神々の王インドラでさえ黄金の鎧を失っても勝てないと戦慄させたこと。
曰く、仮に万全の状態であったなら、単身で三界を制覇するといわれたこと。

その情報と現在の状態をを鑑みて、扶桑はこの相手を自分たちの力では撃破不可能と判断した。だからこその戦場移動。打倒できないのなら、艦隊主力から可能な限りこの神にも等しい相手を引き離し、味方への援護とする。

信頼する仲間達もまたその意図を瞬時に理解し、ランサーを未遠川下流方面に追い立て始める。
ランサーもすぐに彼女らの意図に気付き、これに乗る。そして、橋から二百メートルほど離れた場所まで移動した。

瞬間、橋が爆発した。


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