三隈「み……くまっ!!」
水面に立った“黄金色のランサー”を三隈の魚雷が強襲する……が。
ドッ!!
三隈「嘘…っ!」
雷撃の水柱を遥か後方に置き去りにし、神速の踏み込みが三隈に迫る。
三隈「きゃっ…」
槍の石突きによる突き上げを辛うじて両腕で受けた三隈は空中――ランサーの眼前に放り出される。突きの体勢に入るランサーを見て、身動きの取れない三隈は――
最上「でえええい!!」
どごっ!
最上の体当たりによって救われた。代わりに槍は最上の右肩を切り裂き、流れた血は夜の川面をさらに暗く染め上げた。
最上「く…」
山城「最上から、離れなさああいっ!」
片膝をついた最上を袈裟懸けに斬り倒そうとするランサーを、山城が背後から羽交い締めにする。
カ「ほう。それで?」
山城「え?」
ガシッ!
肩越しに回されたランサーの両手が、山城の両肩を掴む。
山城「う、嘘…!」
信じられぬ程の膂力で山城を艤装ごと持ち上げ、そのまま天地逆になった山城を頭上に高々と掲げる。不幸にも下着を露わにした山城は、天地逆のまま空中で地団駄を踏む。
山城「こ、こらーっ!離しなさいよ、この変態!!」
カ「分かった」
“施しの英雄”は山城の頼みを素直に聞き入れ…
ブオッ!!
…放り投げた。投げ飛ばされた山城は三隈・最上・扶桑を巻き込んで転がっていく。
山城「いたたたた…姉様、大丈夫?」
扶桑「ええ、なんとか」
カ「ほう、まだ立つか」
ランサーが感心したような声を出す。事実、感心しているのだろう。手加減してとはいえ、カルナを相手にしてここまで食らいついてくる敵は、生前を含めてもそう多くはなかっただろうからだ。
扶桑(とはいえ…このままではやられるのも時間の問題。せめて一泡吹かせてやりたいわ…!)
…と。
チカチカッ!
扶桑(光…?)
視界の隅に光の明滅が見える。彼女達は未遠川を下り、河口――冬木港に近づきつつあった。明滅は、神通の持つ探照灯の光に他ならなかった。
扶桑(…そうだわ)
何かを思い立った扶桑は、ゆらりと立ち上がりながら肩を震わせて笑ってみせた。
扶桑「ふ…ふふふ…そうよ。扶桑型は火力だけじゃない、速度も、防御力も自慢なの」
山城「姉様…?」
扶桑「こんな攻撃では、沈もうにも沈み切れないわ。私達を沈めたいなら、せめてあの時の…光の矢くらいの攻撃じゃないと」
言いながら、先ほどの光が見えた方角を背にして立つ。
山城「姉様…何を言って…!」
狼狽える山城を、微笑んで制する。
扶桑「見せてみなさいよ、カルナ…神の一撃、“
梵天よ、地を覆え”を!」
カ「……」
一瞬の沈黙の後、英霊は宣言する。
カ「いいだろう。安い挑発だが、乗ってやろう。“誰からの頼みも断らぬ”のがオレの信条故に。…容赦はせぬぞ」
扶桑「ご忠告どうも。後で吠え面かくがいいわ」
扶桑(金剛たちも、この会話は通信で聞いている筈。チャンスは一度よ。上手く逃げなさい)
~~~~~~~~~~
ガッ!!
ジークフリートの大剣とビスマルクの第1砲塔が鍔迫り合いになる。いや、圧倒的な腕力の差がある。ビスマルクは片膝をつき、完全に押さえ付けられる格好となった。
Z3「ビスマルクっ!」
あきつ丸と駆逐艦らの位置からは背中が狙えない。詰んだ――ビスマルクがそう悟ると同時に、ジークフリートの体から凄まじいほどの“気”が噴き上がる。それは“悪竜の血鎧”と並びジークフリートを象徴する宝具、その解放を告げる狼煙だった。
ジーク「終わりだ。あの世で仲間を待つがいい」
そう。背中が狙えない、ジークフリートの前方180度。それは大剣の破壊力が及ぶ範囲そのもの。
ジーク「
“幻想大剣・――――」
タキュゥン!
ジーク「!?」
銃声。それは
誰もいないはずのセイバーの背後から放たれた。セイバーは攻撃を中断し、銃弾を拳で弾いた。
あきつ丸「間に合った…!であります」
ジーク「貴様…何をした…!」
この戦いで初めて、セイバーが戸惑いの表情を見せる。
あきつ丸「“大発動艇”をご存知でありますか?我ら陸軍の誇る、揚陸用船艇であります。海岸から敵地に攻め込む為に、色々なモノを運ぶのであります。武器、弾薬、燃料、食料――――中でも最も大事な荷物は、“兵”であります。大発は、兵を運ぶのでありますよ」
タキュゥン!
タキュゥン!
タキュゥン!タキュゥン!
四方八方から浴びせられる銃声。銃弾を凌ぎつつ目を凝らせば、草木の陰に隠れながら拳銃や小銃を構える無数の“小人”の姿があった。
ジーク「おのれっ…!」
数発ならば背中で受けても大したダメージにはならない、そう判断したセイバーは、ビスマルクを押さえつけていた手を離し、大剣を大上段に構える。だが、それこそが彼女たちが待ち構えていた勝機であった。
あきつ丸「――今ッ!!」
ズドドドドドドッ!!!
連鎖する爆音。続いて…
メキメキメキメキ……
何かの軋む音。周囲の樹々が爆弾で倒されている…セイバーがそう気付いた瞬間には、状況は既に決していた。
ズッ……ゥゥウン……!
数百メートル四方の樹々が地響きと共に一斉に倒れ、セイバーの視界を覆い隠す。土煙が晴れたときには、4人の姿は消え失せていた。
ジーク「すまないマスター、見失ったようだ」
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