霞「ところでさ、探すっていっても具体的にどうするわけ?」

冬木市南部の山林地帯に侵入した不知火に、僚艦の霞は尋ねた。

霞「相手は魔術師なんでしょ?魔術で目くらましくらいできるんじゃないの?」
不知火「その点はおそらく心配ありません。明石さんの“魔術強化”は各自の電探にも及んでいますから、視覚は誤魔化せても、電探までは欺けないはずです。ただ……」
陽炎「ただ?」
不知火「それはあくまで相手が“視覚を欺く目的で”結界を張っていた場合です。高位の魔術師が“電探を欺くための”魔術を行使していた場合は、簡単には見つからない可能性もあります」
霰「それじゃあ…」
不知火「まあ、敵地に近づけば近づくほど、警護の者が出てくる可能性も高まるでしょう。それを目印に虱潰しに探す……現状の最善手はそうなるでしょう」
霞「やれやれ、ホントに厄介な相手だわね」

そんな相手と巡り遭ってしまった自分達の因果を呪いたい気持ちを抑えつつ、霞は静かに嘆息した。

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ズドドドドドッ!!

翔鶴型姉妹の彗星一二型甲を先頭とした先制爆撃に対し、二人の騎士は対照的な対応を見せた。

ズバッ!!

まるで何事もなかったかのような勢いで爆炎の中から飛び出した青い影は、正面にいた白露の肩を浅く切り裂いて着地し、振り向いた。

白露「きゃっ!」
犬「悪りいな、俺の身体には『矢避けの加護』がかけられてる。砲弾なんぞ何千発持ってきたって当たりゃしねえぜ」
夕立「自分から話してくれるなんて、大した自信っぽい?」
犬「!」

ブンッ!

背後からかけられた言葉に、ランサー=クー・フーリンは反射的に槍を翻しながら振り向く。

犬「ほう……俺様の背後にそこまで近づくとは、嬢ちゃんやるじゃねえか」
夕立「バックアタックは得意っぽい?」
犬「へっ、とぼけたこと言いやがって。面白れえ、まずお前から相手してやる…ッ!」

猛犬と呼ばれた男と、狂犬と呼ばれる少女の戦いが始まった。一方……

ゴォッ!!

白銀の鎧に身を包んだ騎士は、鎧と同じく白く輝く剣を大きく振り上げ爆風を薙ぎ払った。

阿武隈「がら空きなんですけど!!」ドウッ!

間隙をついて肉薄し、大きく開いた胴を目掛けて放たれた砲弾は然し、返す刀で容易く弾かれた。そして――

ドッ!

阿武隈「っ!!」

セイバーの左拳を鳩尾に受け、阿武隈は血を吐いて悶絶した。

白「『がら空き』…?誰のことでしょう?」
長良「このっ!!」ドッドッ!
白「無駄です」

続く砲撃と爆撃を隙のない剣技で防ぎつつ、白銀のセイバー=ガウェインは語った。

白「見目麗しいレディ達といえども、手加減など致しません。せいぜい幸運を祈ることです」


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モ「へえ……なかなか粘るじゃないか」

甲冑の騎士の声色は、然し言葉とは裏腹に余裕綽々としていた。氷の上とは思えぬ卓越した身のこなしは、7人の艦娘を同時に相手取りつつ全く冴えを失っていない。

北上(まずったね…この地面があるせいで伏兵甲標的が使えない……てかあたしら雷巡って決定的に地上戦向いてないんだよー!)
モ「足が止まってるぜ?」
北上「やば…ッ!」

ゴッ!!

逆袈裟に振り上げられた斬撃をなんとか身をよじって避け、代わりにその矮躯に似合わぬ豪腕を顎に受ける形となった北上は、悲鳴を上げる暇もなく弾き飛ばされる。

木曾「姉貴!」

木曾が驚きの声を上げている間に、球磨型の四女はその身を敵の懐に滑り込ませていた。

大井「私の北上さんに……何してけつかるのよオォォォォッ!!」
モ「!?」

ズシィン!!

セイバーの視界が縦に一回転し、背中に衝撃を感じる。投げ飛ばされた――そう理解すると同時に姿勢を立て直して距離をとり、騎士は感嘆の息をつく。

モ「ひゅう、驚いたな…今のは“ジュージツ”ってやつか?この俺から一本取るとはな」

しかし、投げ飛ばした大井を含め、周囲の艦娘達も別の意味で驚いていた。

利根「少年……いや、少女じゃと!?」

背負い投げの衝撃で外れた兜の下から現れたのは、彼女達自身とそう変わらぬ年恰好の少女の顔だった。だが、感心した顔つきの少女の顔は、利根の言葉を耳にした瞬間憤怒の色に染め上げられた。

モ「オイ……俺を女と呼んだな……?」

聞くもの全てを凍てつかせるほどの低い声色に、艦娘達は思わず息を止める。

モ「――殺す!!」

目の錯覚か、紅い闘気を纏ったように見えるセイバーの刃が、これまでに倍加した速度で利根に襲い掛かった。


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