気圧された。ランサーがそう自覚するより早く、山城はランサーに掴みかかっていた。自分に艤装が残されていることも忘れ、子供の喧嘩でするように、ただ我武者羅にむしゃぶりつく。

カ「……」

だが、そのような攻撃とも言えぬ攻撃がカルナに通じる筈もなく。山城は容易く片手で引き剥がされ、放り棄てられる。が……

山城「うああああ!」

ガシッ!

最早用はないと振り向いたランサーの背中に、山城はまたも縋り付く。今度はランサーも苛立ったのか、槍の石突きで山城を弾き飛ばす。が、それをもものとせず、山城はまたしてもランサーの腰に掴みかかる。

カ「いい加減に……」
最上「う、うわあああっ!!」

ガシッ!

山城を引き剥がそうとするランサーの右腕に、土手から飛び掛った最上もしがみつく。振り払おうとするが、圧倒的な膂力をもつ筈のランサーが簡単に振り払えない。開いた左腕の槍で突き飛ばそうとすると、その左腕にもしがみつく者があった。

三隈「させ……ませんわ…!」
最上「これ以上……僕達の仲間を……やらせるもんか……!」
山城「姉様を……姉様を返せええええええっ!!」

実のところランサーは当惑していた。そもそもランサーは、艦娘を殺さぬように命ぜられていた。扶桑のあの態度からは、当然生き残る術があるのだろうと思われた。故に宝具による攻撃に踏み切ったのだ。だがその結果……扶桑は川面に沈んだ。己の身を犠牲に仲間を救う積りだったのか。然し、幾ら扶桑の顔を思い返しても、あれは死を賭した者の表情には見えなかった。

カ「何故…」

「決まっているでしょう。貴方を止める為よ」

カ「!?」

ずぶり。カルナの両脚が突如、水面に沈む。否、引き摺り込まれた・・・・・・・・

「まったく……私が『女神』を持っていることを忘れるなんて……山城ったらウッカリさんね」
山城「姉……様……!」

水面下から浮上した顔は、幽鬼の類のものには見えなかった。その顔は『梵天よ、地を覆えブラフマーストラ』を受ける前と同じく、いや、それ以上に生命の力に満ち溢れていた。

カ「お前は……!」

ランサーは脱出すべく、全身に力を込める。だが、何故か容易く剥ぎ飛ばせる筈の艦娘達が剥がれない。

最上「扶桑が命を賭して作ったチャンス…」
三隈「逃しはしませんわ…!!」
山城「姉様を一度“殺した”罪…甘んじて受けなさい……!」

ならば、と魔力を放出して艦娘達を弾き飛ばそうとする。宝具解放直後で魔力の蓄積が少なかったが、この程度なら問題ない……だが、その判断は遅きに失した。

扶桑「訂正するわ。本当は速度と防御力は自慢じゃないの。でも、主砲の火力だけは自慢よ。本当にね」

眼前に突きつけられた砲口は、カルナの顔面を呑み込まんばかりに広がっていた。『日輪よ、具足となれカヴァーチャ&クンダーラ』の防御力は絶対だが、それは飽くまで鎧に包まれた部分のみ。それ以外の……例えば顔面に及ぶ効果は限定的。戦艦の渾身の射撃なら、意識を奪うくらいの効果はあるだろう。

『九一式徹甲弾』シャッ

『35.6cm連装砲』シャッ


ドゴォッ!!

カルナの視界を炎が包み込んだ。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ジーク「さて、仕切り直しだ。言っておくが、同じ手は二度と通用せんぞ」
あきつ丸「く……」

ジークフリートの脚は想像以上に速く、逃げたあきつ丸らは円蔵山の麓で捕捉された。

Z1「戦えるのは僕たちだけだよ。いける?」
Z3「やるしかないでしょう」
ジーク「無理はするな。大人しく降参するなら命までは取らぬ」
Bis「期限までは、でしょう?」
ジーク「そういう条件だからな」

問答になっていない問答である。だが、時間稼ぎにはなったようである。

ズババババッ!!

ジーク「ぐあっ!?」

セイバーの背後、藪の向こうから放たれた無数の25mm機銃弾が、ジークフリートの弱点たる背中の中心を捉えた。命中弾は数発に留まるようだが、完全に虚を突かれた格好のセイバーは、走ってきた為でない、荒い息を吐く。

ジーク「く……何者だ!」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「あたしの機銃、全部で66挺もあってよ。有効射高はだいたい3000メートル。これを水平射したらどうなるか……一度試してみたかったんだ」
「どうやら計算以上の効果だったみたいね、摩耶」

摩耶の言葉に、鳥海が眼鏡を指で直しながら応じる。彼女らは円蔵山の入口、柳洞寺の石段下にいた。

大和「貴女たちはあきつ丸隊の援護に回ってください。私達は先に柳洞寺の境内に入ります」
摩耶「おう!」

仕切り直しは、新たな戦力を加えてのものになった。


_vs_magus_9-6