時は数分前に遡る。冬木市と鎮守府の中間の海上を進んでいくガレオン船の甲板に、3騎のサーヴァントが立っていた。
カ「ライダー」
ラ「ん?」
メ「はい?」
同時に同クラスの2人が振り返ったのを見て、黄金色のランサー・カルナは頭を振った。
カ「すまない、ドレイクの方に聞きたいのだが」
ラ「何だってんだい、改まって?」
カ「彼らに、“切り札”はあると思うか?」
メ「切り札――私達で言う、宝具のような?」
カ「ああ」
とりとめのない質問に、ライダー=フランシス・ドレイクは肩をすくめる。
ラ「そりゃないだろ。んなモンがあったら、とっくに使ってる」
でなきゃ舐められたモンだ、そう言うドレイクにバイザーを付けたライダー・メドゥーサも頷く。
カ「そうとは限らない。限定された状況でしか使えない切り札もまたあるだろう。例えば、一生涯に一度しか使えなかったり、使えば己とは違う存在になってしまったり」
メ「……」
成程、英霊の宝具にもそのような性質のものは存在する――その指摘を受けてドレイクはしばし黙考し……慎重に言葉を紡ぎだした。
ラ「あくまで、推測込みの話だ」
カ「ああ」
ラ「アイツラと実際に闘り合ったお前らなら分かると思うが――アイツラはある時は見かけ通りの小娘のようでもあり、ある時は“生前”の船のようでもある。マスターの言葉を借りれば、『存在が二重になっている』ってことらしいが」
今いち要領を得ない、といった様子のカルナに再び肩をすくめると、ドレイクは続けた。
ラ「感じたことはないかい?アイツラは時々、見た目以上に“重い”し“硬い”」
メ「それなら分かります。実際に相手をした彼女たちは、確かに巨大な鉄の塊のような重さと頑丈さでした」
ラ「そういうこと。前にあの不知火って奴と闘った時の話だが……一瞬奴がコイツ――『黄金の鹿号』の何倍も巨大な船に見えたことがある」
カ「……」
ラ「アイツラは普段は見かけ通りの、華奢な小娘の肉体と人格を持った存在だ。だが同時にもう一つの側面――70年前の鉄の船っていう姿も持ってる」
カ「成程、彼らは必要に応じて、その『もう一つの側面』の性質を引き出すことができるということだな」
メ「性質……重さ、硬さのような?」
ラ「ああ。武器だってそうだろう。あの大きさの弾の中に、信じられない量の火薬が詰まってやがる」
ここでドレイクは再度、自分の推測だ、と断りを入れた。
ラ「アイツラが意識してやってるかどうかは知らないよ。だが、もしその『もう一つの側面』をどこまで引き出すかも、変えられるとしたら。やろうと思えば、“全部”出せるんだとしたら」
カ「マスター…」
メ「……!」
バサアッ!
何かに気づいた様子のカルナと、天馬に跨がり舞い上がるメドゥーサ。
ラ「慌てなさんなって。必要なら令呪で……行っちまった。アイツも存外健気だねえ」
カ「……仮に」
ラ「?」
カ「仮に“全部”引き出したのならば、彼女らは矢張り“死ぬ”のだろうな」
ラ「そうだねえ。“人格”があるのは小娘の方だけだろうからね」
カ「…………」
それ以上2人は語らなかった。ガレオン船は静かに、目的地へ向けて航跡を刻んでいった。
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