侍「漸く小煩い絡繰蜻蛉も居なくなったか」
霞「ち……!」
赤城らの航空部隊は、アサシン=佐々木小次郎の前に少しずつ数を減らしていき、遂に全機が撃墜された。その間、何百、何千の砲弾と爆弾、機銃弾が放たれたが、小次郎の身体を捉えたものは1発も無かった。
霞「喰らいなさい!!」
前方、そして上方に打ち分けての一斉射。異なる角度からの砲撃は確実にアサシンの位置を捉えていたが――
スパァン!!
日本人としては長身のアサシン、その身の丈を超えようかという長刀“物干し竿”は易々と、砲弾の嵐を切り開いた。
霞「くそっ!」
侍「遅いぞ!!」
霞「!?」
――――ィィン!!
霞「うっ!!」
弾を撃ちきった霞を、容赦なく長刀の一閃が切りつける。霞は、無理やり身体を捻り、既に役立たずとなっている右腕を斬らせることでこの一撃を凌いだ。
霞「こ、これが、燕、返し……!」
実の所、アサシンはここまでの戦いで『燕返し』を使っていない。『燕返し』とは、ただの神速の剣技ではない。時空を捻じ曲げ3つの斬撃を同時に放つ、“魔法”の域にまで至った、一面では究極とも言って良い技術である。これまでの戦いでは、アサシンはその『燕返し』を用いずとも、すべての攻撃を防ぎきり、霞を追い詰めることができていた。
侍「これで種切れかな?」
霞「まだよ!!」
霞(主砲と機銃だけなら全弾防がれる……なら!)
ドドッ!!
先ほどと同じく、機銃で弾幕を張りつつ上方と前方に撃ち分けての砲撃。然し、霞の攻撃はそれで終わらない。
霞「おまけよ!!」
ブン!!
跳躍し、ブーメランの要領で魚雷2本を放り投げる。同時に、背中の投射機から爆雷を投じる。無論、これらすべてが異なる角度から同時に着弾するように計算している。が。
侍(正面の
大砲が一瞬早い。次が
長いの、上からの大砲と
短いのは纏めて、か)
神速の剣士にとってそれは“同時”ではなかった。冷静に僅かなタイミングの差を判断し、まずは逆袈裟に正面の砲弾を切り裂く。その時。
侍「なっ!?」
剣士が初めて驚愕の表情を見せる。何故なら、今切り裂いた砲弾の背後に――
侍(もう一発…!)
――切り裂いた弾の軌道に重なるように、もう1発の砲弾が隠れていた。派手な弾幕で砲撃の瞬間を覆い隠した霞の奇策だった。
侍(……間に合わん!)
身体は既に魚雷の迎撃に入ろうとしている。それでは全ての弾を受けきることは出来ない。この場でアサシンに残された手段は1つだった。
侍「秘剣――『燕返し』!」精神を刀に集中。3つの剣閃が“同時に”閃き、砲弾、魚雷、爆雷は全て両断され、アサシンの背後で空しく爆裂した。――が。
侍「むっ……」
今の一撃に集中した結果だろう。先ほどまで霞の立っていたところには、血痕と焦げた匂いだけが残り――
侍「弾を囮にして逃げた、か……まんまと一杯食わされたな」
~~~~~~~~~~
ドドドドドドドド…!!
ヴ「ははははは、どうした蛮族!余にはまだ一撃も届いておらんぞ!」
宝具の使用を制限されたことにより、『極刑王』の杭はそれ以上増えることは無かった。然し、杭の1本に左の太ももを貫かれた霰はその場を動くことを許されず、只管弾幕を張ってランサー=ヴラド三世の動きを封じ続けるより他無かった。
霰(もっと多く……もっと濃密に……!)
壁に、床に、天井に、跳弾を繰り返しながらランサーに迫る砲弾と銃弾。霰の卓越した射撃技術はその全ての軌道を綿密に計算し尽くしていた。密度を増し続ける弾幕は然し、ランサーの身体には1発も届いていなかった。全てが槍に防がれ、ランサーの周囲には槍の長さを半径としたドーム状の“空白地帯”が出来ていた。
霰(もっと、もっと――!)
槍で砲弾を防げば、当然その爆風はランサーにも届く。然し、サーヴァントの強靭な肉体に傷を負わせるには、単純に威力が不足していた。
ヴ「つまらぬな。そろそろ止めを刺してやろう」
そう言うと、ランサーは槍を振りながら一歩前に歩みだす。同時に“ドーム”も一歩分、その位置を移動させた。
霰(まだ……まだ足りない!!)
霰は気力を振り絞り、弾幕の密度を倍化させる。だがランサーには届かない。
ヴ「さあ……串刺しの時間だ」
霰(あと、少し―――)
“ドーム”の端が霰に届く。それは即ち、槍の間合いが霰を捕らえたということ。
ヴ「裁きを受けよ、蛮族……!!」
霰「今!!」
カッ!!ランサーが霰の頸を目掛けて槍を振り下ろそうとした瞬間。“ドーム”を構成していた砲弾が、一斉に炸裂した!
ヴ「ぬぅっ!?」
爆風は、1発ではランサーの身体を傷つけることはできない。だが、数十の砲弾が、同時に等距離で炸裂したならば――四方八方から届いた爆風が、凝縮しながら標的を襲ったならば、その威力は、個数以上に増幅される。“爆縮”の威力は、ランサーに一瞬とはいえその膝を地に着かせるに足るものだった。そして――
霰「……かはっ――!!」
その周縁部にいた霰にも、その威力の片鱗は襲い掛かった。爆風は、杭を圧し折り、歯を食いしばって耐える霰の身体を、広間の窓のひとつまで吹き飛ばした。
ガシャァン!!
霰の身体は、そのまま窓を突き破り、館の外の森の中に消えていく。
ヴ「貴様、そこまで計算して――ふん、食えぬ奴よ」
弾幕の嵐が晴れた広間で、数少ない処刑を逃れた闖入者に対して、極刑王は憎々しげな台詞を漏らした。
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