不知火「急な辞令でした。なにぶん上の者が決めたことですので、この勝負とは関係のないことです。鎮守府が此処に移った以上、帰還先は此処にせざるを得ません」
ジ(虚言ではないか、と指摘しても水掛け論になるだけですね。それよりも確認すべき点はあります)
ジ「抑も、ここは他人の土地でしょう?」
不知火「軍事行動の為に民間の土地を一時的に接収することはままあることです。最近の深海棲艦の増加に対抗するため、ここ冬木が泊地を設置するのに相応しいとの判断です。緊急性が高いため、新しく建屋を建造するより既存の民間施設を借用するのが得策と、軍上層は判断しました。無論所有者の同意が前提ですが、家主は『海の平和を守るために力を貸して欲しい』と言ったら二つ返事で承諾してくれたようです」
ジ「…そうは言っても、唯の家でしょう?鎮守府と呼ぶにはそれなりの設備が必要では?」
伊19「それならさっき造ったのね」
ジ「さっき?」
キョトンとするルーラーに、伊19はついて来いと手で促す。後を追って離れの廊下を進むと…
ジ「……浴室?」
離れの面積には明らかに収まっていない、巨大な大浴場があった。2つの1人用と思われる浴槽には、タイマーらしきデジタル表示がついている。
伊19「入渠ドックなのね」
言いながら、向かい側の扉を開ける。そこにはまたしても物理法則を無視したサイズの部屋があり、妖精達が何やら忙しく働き回っていた。
伊19「工廠なの」
不知火「急造ですが、ドックも工廠もあります。鎮守府に必要な最低限の設備は揃っていますよ」
ジ「は、はあ…」
どうやら、先ほど駆けていった妖精達は、これを作り上げるためのものだったらしい。
ジ(キャスタークラス並みの『陣地作成』スキルですね…って、感心してる場合じゃありませんでした)
ジ「こ、ここに鎮守府としての機能があることは分かりました。しかし、大事なものが欠けています」
不知火「大事なもの?」
首を傾げる不知火に、ルーラーは人差し指を立てる。
ジ「ここには提督がいません。貴方がたの提督は、サーヴァント2騎によって追い返されたことを確認しています。提督のいない此処を、鎮守府とは認められません」
不知火「なんだ、そんなことですか」
不知火の返事は、あっけらかんとしたものだった。
不知火「ここが司令室です。そろそろ準備が整う頃でしょう」
扉を開ける。正面には大型テレビ相当の液晶モニター。黒い画面の中央には、水に浮かぶ船のシルエット。次いでデータロードを示すゲージが埋まると同時に、スピーカーが、最後のピースが埋まったことを告げた。
『提督が鎮守府に着任しました。これより、艦隊の指揮を執ります』
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