(それは酷く曇った日だった
どんよりと灰色の空と肌をつきつきと小さな針で刺すような寒さに手を擦り合わせては町行く人々を眺めては来るはずの友人を待っていた

心臓は此から向かう場所への期待か緊張か…どきどきと跳ねてはいるものの如何せん外の寒さはつらく…いっそ諦めて帰ってしまおうかとも思うぐらいだった)



(ふぅー…と息を吐き出しているとばたばたと駆け寄る人影がいた
それは見慣れた顔をした友人で何やら家庭の事情で少しばかり遅れたそうな…
とりあえず向かいながら話を聞こうと告げると友人はけらりと笑った)











(ゆらゆらと人の波に逆らいながら歩いていると大きな鳥居が見えた
赤い…赤い大門の先の街並みは酷く薄暗く…それでいてぼんやりとした灯りを放つ灯籠が店先に置かれていた
鳥居の前で立つ人は此方を一見するとくっと顎を向こう側へ向けた

友人に手首を掴まれ鳥居を潜ると…そこはもはや別世界のようだった
日の光を遮るかのような大きな屋根、手招く白い手、檻のようなものに入れられた美女達……

思わずくらりと眩暈を起こしそうになったが友人が足を止め、その背にぶつかったせいか眩暈など消えてしまった)




『あれを見て』


(友人の指差す方を見ると美しい美女達の行列がゆっくりとした足取りで歩いて行くのが見えた
俗に言う花魁道中だろうか……その後ろから歩く男花魁の姿が見えた


先頭に立つ男は得意気に笑ってはもっと来いと言うようにゆらゆらと手招きをしている
その後ろを歩くのは中性的な…綺麗な青年……きちっとした足取りで歩く度に揺れる艶やかな黒髪はあまりに美しすぎる……
無精髭を生やした色男に真っ赤な編んだ髪を揺らし歩く大男…様々な遊男が練り歩く中……ある一人の遊男に視線を奪われた)


『ああ、今夜の立花太夫も素敵…』

『何を言ってらっしゃるの森太夫が一番よ…』

『雑賀様の男らしさがいいわ』

『いいえ、風魔様の声と身体には誰も叶わないわ』


(女人達は各々楽しげに笑っては語っている
友人は貴女に名前の書かれた紙を見せては指を指しては名前を言っていく、そんな中でも視線はその遊男にしか向けられなかった


番傘をくるりと回してはゆっくりと歩く穏やかそうな遊男……
足取りはきちっと…されど固すぎず……ゆらりと紺色の打掛の袖を揺らすその姿にどくりと心臓が跳ねた)


『わたしは…毛利様がいいわ』

『毛利様は穏やかそう…一度で良いから一夜を共にしたいわ』

『毛利様を指名しても…抱かれるのなんて極僅かよ』

『そこがいいの、いじらしくって素敵なお方…早く私を……』


(くすくすと笑うては毛利と言われた遊男に手招きする女達、遊男はゆっくりと此方を見ると柔らかな笑みを浮かべた
…それは誰に向けられた物なのかはわからない、しかし…視線が交わった時……僅かに目が細められたような気がした)



(各々、各自の店に入っていくのを見届けると人集りはばらけていく
そんな中隣を見るとにやけた顔をする友人だった)


『毛利様がいいのね』


(友人は指名する人が被らなくてよかったと笑うと手首を掴んでは歩いていく)


『良かった、話はつけてあるから早く引手茶屋に行って顔合わせしましょう』


(顔合わせとはと首を傾げると友人はため息を吐き出した
客と見世の間を取り持つ引手茶屋で待機した後…遊男が茶屋に現れそこで顔合わせの為の宴会が始まるそうだ
遊男側は酒も飲まず会話もしない、そんな宴会楽しいのかと思いはしたが…あの人を少しでも近くで見えるならそれはそれで良いかと思っては頷いた)






























































































































































































(どれぐらい待っただろう
どきどきと跳ねる心臓を押さえていると…
煙る紫煙、香るは花