○○「…あ」
昨日思ったことは、やはり正しかった。
ハードな冗談ではなく。
俺をからかって遊びにきたわけでもない。
純粋に、彼女の意志でそうしたんだ。
だが、疑問は残る
○○「でも、何故わざわざナズの姿をとったんだ」
そう、だ。
それが一つだけ分からない。
彼女は、躊躇いがちに言う。
ぬえ「最終手段だったの」
ぬえ「君は絶対に揺らがないって、分かってたから。 ナズしか居ないんだって、分かってたから」
絶対に勝てない賭け。 それをひっくり返すには、どうするか。
簡単だ。
カードの配置を、お互いに入れ替えればいい。
絶対に勝てない者の相手は、絶対に勝てるから。
彼女はナズの姿になって、俺のところにきた。
ぬえ「でも、焦りすぎた。 もっと気を見れば良かったのに、演技も巧く出来なかったし、もう、ボロボロだったでしょ」
えへへっと笑う。
……俺の心の中に、一つ言葉が浮かんだ。
言っていいのか悪いのか、けど、どうしても聞きたい。
それが自己中心的だとしても。
○○「ぬえ」
ぬえ「…ん?」
○○「なんで、俺なんかのためにそこまでするんだ?」
一瞬驚いた顔をしたが、すぐに取り戻す。
そして、言った。
いとも簡単に。
ぬえ「……簡単だよ」
逆に、驚かされた。
そんなに必死になるほどのものが、俺にあるんだろうか。
そうやってぐちゃぐちゃになるまで思い悩む必要があるのか?
けれど、彼女は淡々と、言った。
ぬえ「○○しか、見えてないからだよ。 他はゴマ粒みたいにしか見えなくなってるんだ。 これ以上、ないってくらい」
そんな。
バカな。
俺の心情を察したか、ぬえが言う。
ぬえ「○○、 ねぇ? ○○? 私はずっと人が嫌いだったんだよ? 人だけじゃなく、他の妖怪とかからだって良い目はされてこなかった。 ずっと一人だったんだよ?」
ぬえ「それが、突然やってきてさ。 何回迷惑かけても変わらず接してくれるし、優しくするし。 ねぇ、じゃあどうやったら他の人が目に映るのさ」
ぬえ「○○のお陰で、少しづつ人のことも見直して、また自然に接することが出来るようになって。 そこまでしてくれた人。 想わないですむ方法なんて、私には分からない」
一気に、まくし立てる。
感情の吐露。 こころにあった言葉を全て一気に吐き出したように。
だが、そこにあるのは。
あまりにも、信じがたい。
まったく気付けなかった。 気付かなかった。
自分が一人を追いかける傍で。
別の一人が、自分を追いかけていた。
絶対に勝てないと分かっていて。
それでも。
成功したとしても、一時の勝利しか得られない方法を使っても
それでも、
構わないと思えるほどに。
○○「ぬえ…」
なら、今。
俺は、どうすれば良い?
彼女の気持ちに応えるのか?
それとも、自らの想いに順ずるか?
○○「俺は、その」
ぬえ「……いいよ」
○○「…え?」
ぬえ「ナズのところへ、行って」
そう言って、ゆっくりと離れる。
すぐに、普段話すくらいの距離感に戻った。
ぬえ「良いんだ。 もう、全部終ったから」
○○「お前…」
ぬえ「良いんだって。 私は駄目だったの。君はナズが好きなんでしょ? きっとナズも君が好きだから。 今更そこを裂いても仕方ないもんね。 もう迷惑もかけないし、二人の仲を邪魔するようなこと、しないから」
……そう、言われても。
あんなことを言われて。
あそこまで心のうちを暴露されて。
今更どうして。
○○「戻っていいって言われたって、無理だろ」
別にカッコつけるとか。
両手に花を実現させたいとか、そんなんじゃない。
ただ。
巧く言えないけれど
自分の行動のせいで人が泣くなんて。
許せないんだ。
○○「嫌だ。 なんで俺なんかのせいで、お前がそんなに苦しんで…」
>>>
名前:ナズーリン
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