チョコが無いのなら自分で行動する他無いだろう。
駅前に行けば間違いなく会える女性を一人知っている。
町中を抜け、開けた駅前に出ると---
---やはりいる。
行き交う人々の中一際目立つのに誰にも見えていないかの様に、静かに楽器を奏でるその人は今日も変わらず美しい。

香奈枝「…………」
いつ聞いてもいい音色だ、思わずバレンタインの事など忘れてしまいそうな程…
長い間聞いていたのか、いつの間にか演奏は終わっていた。

香奈枝「ふぅ…」
小さくだが拍手を送る。

香奈枝「あら○○様、いらっしゃったのですか?お声を掛けてくださればよろしかったのに。」
見事な演奏の邪魔をしたくなかったというのが理由です。

香奈枝「それはどうも、こんな拙い演奏を褒めていただいて光栄です。」
香奈枝さんはそう言ってくすくすと笑った、見事とはすれ拙い印象は持たなかったが。
今日はさよさんがいないようだが、何処にいるのだろうか。

香奈枝「さよは今日お休みを取らせています。最近よく働いていただきましたから、たまには休暇も必要ですし。
ですから今日はわたくし一人でここに。」
そうだったんですか…女性一人ではかなりの大荷物に見えますけど。

香奈枝「よくある事ですからそこまで苦ではありませんよ?帰りは列車ですから。
それに今日はこの荷物を抱えてでもここに来たい理由もありましたし。
はい、○○様。」
香奈枝さんはそう言うと一つの紙袋をこちらに差し出した。
もしかしてこれは…やたらと重いが…

香奈枝「バレンタインチョコレート、なのですが…申し訳ありません、わたくし料理はてんで駄目で。
手近で用意できたものがそれしか無かったんです…食べられない物をお渡しするよりはよろしいかと思って…」
袋の中には・・・・
何やら重箱のような物が入っている。これにチョコが入ってるのか…?

香奈枝「わたくしが海外にいた頃よく食べていたお店の物で、今でもたまにお取り寄せさせていただいているんです。先日送っていただいた新しいものがありましたのでこれを是非○○様に食べていただきたくて。」
こんな高価な物を本当にただで貰っていいのだろうか。

香奈枝「ええそれはもう…ですがやっぱり情けなく思いましてよ…意中の殿方にこんな物しか用意できないなんて…」
香奈枝さんは泣き出してしまったがとても嬉しく思う。
貰ったものよりもこれを渡すためにわざわざ一人でここまで来てくれた事が嬉しい。

香奈枝「もう、○○様ったら…真面目な顔でそんな恥ずかしい台詞を仰らないでくださいませ…
わたくしの方が恥ずかしくなってしまいます…」
そして泣き止むのも早い。
貰ったのならお返しをしなくてはいけない、香奈枝さんは何を渡せば喜んでくれるだろうか。

香奈枝「お返し?
と言う事は、ホワイトデーの事ですか?律儀なお方ですね、○○様にいただける物ならわたくしは何でもよろしいですよ?」
何でもか…一番困ってしまう返答だが…
何かいいものを探しておく必要があるか。

香奈枝「あらあら、随分と真面目に考えていらっしゃるんですね、これはお返しが楽しみになってきました。
…もうそろそろ列車が来てしまいますね、名残惜しいですが…」
意外に話し込んでいたのか、結構な時間が経っていた。
見ると駅から見て右側の線路から列車が走ってきている所だ、あと数分で停車するだろう。

香奈枝「○○様、短かったですが今日は楽しかったです。
お返しは今日から楽しみにしておきますので。
それでは、ごきげんよう。」
香奈枝さんはそう言って改札を抜けた。
お返し…か。
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