―――『七十二柱の魔神』である事を放棄し、私は『魔神ゼパル』として独立した。
他の三柱がどの座標を選んだかは知る由もなく、また興味もない。
私は人間に憎しみを抱かなかった。むしろ彼らに可能性を感じ、期待した。
『人類を情報として管理する』それが私が得た新たな命題だった。

私はセラフィックスを活動拠点に定めた。
以前からこの施設が不可視領域の原因のひとつではないかと、フラウロスが報告していたからだ。
私は施設でひとりの人間に寄生した。時間神殿で受けた傷を癒すまでの緊急処置として。
我が命題を解くには何十年という時間が必要となる。
その間、カルデアの目を逃れる為にも、人間に寄生するのは良策と言えた。その筈だった。
私が取り憑いた人間の名は■■■■■。セラフィックスの技師だ。
■■はただの平凡な人間、そう見えた。
今でも断言できる。私という外部からの因子がなければ、■■は慎ましやかだが幸福な人生を送り、小さなコミュニティにおいて、最後まで人々に敬われるに足る人物だったと。

だが、その善性は私には不要だ。なので、私の手で意識の底に落とし込んだ。
私は■■が眠っている間に行動し、少しずつ力を取り戻そうと考えた。
その過程で、平行世界の彼は素晴らしい力を有していることを知った。
私の目的を遂行するため、少しだけ…ほんの少しだけ、その力をこちらの世界の■■に与えた。
それが間違いだった。与えたのは僅かな力だが、それと私が寄生していることが引き金となって彼を目覚めさせてしまったのだ。


「俺はただ、一人になりたい。俺は俺で満ちているから、俺以外のものは要らない」


宇宙すら染め上げてしまいそうな自己愛、たった一人の人間のそれが、私達をも凌駕するのを見て、私は取り返しのつかないことをしてしまったと知った。
彼を討伐するために、私はセラフィックスに残っていたマスターの遺体を利用して128騎のサーヴァントを召喚した。
だが、そのサーヴァント達は召喚されるや否や互いに殺し始めた。
それどころか、セラフィックスに生き残っていた人間達もが殺し合いを始めた。
サーヴァントが消滅すると、また新たなサーヴァントを再召喚し、また殺し合いを始める。
そんな無意味な殺し合いがただただ繰り返された。


「俺以外消えてなくなれ、ここには俺だけあればいい」


……私は隠れ家が欲しかっただけだ、地獄を見たいとも、必要ともしていなかった。


「ある日、気が付いたときから不快だった」
「何かが俺に触っている。常に離れることなくへばりついてなくならない」
「なんだこれは。身体が重い。動きにくいぞ消えてなくなれ」


■■の殺意が寄生している私に向けられている。
そう気付いた時の恐怖が今も離れない。
……許して欲しい。もう解放して欲しい。
私は■■の脊髄から脳にかけて寄生しているため、おそらく見つからないだろうということが不幸中の幸いだろうか。

もう礼拝堂に隠した日記にさえ触れない。
私はあの時の恐怖を振り払い、2017年のカルデアへSOSを発信した。

「―――見つけた。見つけた見つけた見つけた見つけたぁああああああッ!!!」

私は発狂した。

いやだ―――いやだいやだいやだ!
もういい、小指の先だけでもいい!
助けて、やめて、殺さないで、こんな様でも生きてるつもりなんだから!

「俺を一人にしてくれないなら、滅ぼし尽くすしかないだろう。なぁ、お前がいたからその結論になったんだぜ?テメェだけは、この俺が引き毟って塵も残さずバラ撒いてやるよォッ!!」

ああ、きえる、きえる、うすれていく
たもてない、じぶん をたもてない、
なんでこんな、こんなことに、わるいことなんか
なにもしてこなかったのに、なんで―――
やだ…いやだよぅ…こんなのひどい……あんまりだ……
ころさないで……すてないで……すてないで……
わたしを みすてないで 波旬さま―――


















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