シリル「怖いかどうかわからないけど、体験談を語らせてもらうわ。
あれは、帝国の都市のホテルに泊まった時の話ね」
『ノック』シリル「私がまだ小さいころのある休みの日に、おじいちゃんと二人でホテルに泊まりに行ったの。そうしたらホテル側の手違いで、予約してた部屋に人が入ってしまって、他の部屋も満室状態で宿泊できなくなっていたの。それでホテル側が謝罪として、唯一開いていたスイートルームに通常料金で入らせてくれたのよ。
そして、その夜。部屋の灯を落として、私たちは眠りに就いたわ。おじいちゃんはすぐに眠ってしまったようだったけど、私は初めてのスイートルームに気分が舞い上がっていて、なかなか寝付けなかったの。それでもなんとか寝ようとして、羊を数え始めたのよ。
そうして、30匹ほど数えた頃だったかしら。不意に、こん、と窓をノックするような音が聞こえたのよ。最初は、虫が当たったんだろうと思って気にしなかったけれども、すぐにまた、こん、と鳴ったわ。
それが、三回、四回、五回。同じ間隔で鳴り続けたの。六回、七回、八回。強さも、音の位置も変わらず、鳴り続けたわ。
九回、十回、十一回。さすがに、私もちょっと怖くなってきてたけれど、それ以上に、好奇心が勝ったわ。虫かもしれないけれど、もしかしたら幽霊かもしれない。で、十二回。そこで私は耐えきれなくなって、カーテンを開けたのよ。そしたら……」
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