…………それでは。お話ししましょうか。
“御阿礼の子”のことを。
むかしむかしも大昔。飛鳥か奈良の時代でしょうか。
あるところに“稗田阿礼”という人がいました。その人はそれはそれは記憶力が良く、一度見たり聞いたりしたものは絶対に忘れませんでした。古事記の編纂にも関わったほどです。
阿礼は死後、その能力を持ったまま、新たな人間として稗田家に転生しました。名は稗田阿一といいます。阿一は阿礼の記憶を継いで生まれてきたため、ほとんど本人のようなものでした。
阿一は人間が妖怪に虐げられ、喰われる世の姿を変えたいと思い、妖怪の種類や情報、対策などをまとめた本を作り始めました。それが幻想郷縁起です。いまから1200年ほど前でしょうか。――もっとも、当時は里の識字率がかなり低かったため、言うなれば未来のために遺した本だったのですが。
それから阿礼は求聞持の力を保ちながら転生を繰り返し、百数十年おきにこの世に舞い戻りました。それが御阿礼の子と呼ばれる者たち。
阿一、阿爾、阿未、阿余、阿悟、阿夢、阿七、阿弥…………そして阿求。私が九代目というわけです。
私はその時代ごとに縁起をアレンジしながら編纂し、里の人たちのために役立てていきました。
しかし……。御阿礼の子には欠点があるのです。
…………私は長生きができません。長くとも歳を三十数えることはできないでしょう。頭が良すぎるからなのか、それとも体を用意してくださる閻魔様がそう決めたからなのか…………。
そしてもう一つ。私は転生しても、すべてを覚えているわけではありません。
転生して継ぐ記憶は、自分自身のことや縁起に関することなど、かなり限定的です。他にも覚えていることはありますが、決して多くはありません。
時代を跨いで転生するので、人間関係がすべてリセットされるのも辛いですね。
…………当代の幻想郷縁起の編纂も、もうじき終わります。これが終わったら、そろそろ転生の準備を始めなければいけませんね。
……このように、まともに人として生活することもできないのです。
あと何度、あなたとこうして話し合えるのでしょうね。
…………こんなところでしょうか。長く語ってしまったようです。
このように稗田阿求は色々と複雑な人間なんです。
それでも良ければ……是非、私とお話ししてくださいね。
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