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 一年ぶりに、墓地を訪れた。

 夏の陽射しを遮る木々。葉の合間から漏れる陽光。
 里を見下ろす高台の木陰に、ひっそりと隠れた小さな墓地がある。
 辺りは静謐としており、蝉の声も遠く響くだけだ。

 ここは稗田家の人間だけが葬られる墓地で、代々の御阿礼の子が眠っているらしい。
 それを教えてくれたのは、昔ここに一緒に来た人だった。

 辺りにはぽつぽつと朝顔が咲いており、夏の空気を思わせる。
 彼女が彼岸へと渡ってから、もう何度目の夏を迎えたのだろう。

 数えて十ある墓標の中。端の墓石に『稗田阿求』の名を見つけた。
 刻まれた名を見た途端、腹の底からこみ上げてくる何かがあって、ずきんと胸が傷んだ。

 とうに終えたはずの感傷を振り払い、合掌する。
 いつもの掃除を始めよう。


墓参り