「父ちゃん、母ちゃーん!」

 夏の日差しの下。しばらく歩くと、道の向こうから走ってきた息子が抱きついてきた。
 抱き上げて肩車をし、妻と並んで歩く。
 それから、今晩は何を食べようかとか、明日はどこに行こうか、とか。そんな話をしながら、里へ向かった。
 何の不安も、後悔も、悲哀も、悲恋も、そこには無かった。



 結局、俺は君を忘れることが出来なかったし、人の身を捨てることも出来なかった。
 ちっぽけな俺だけど、今こうして俺を必要としてくれる人がいること、それだけで生きる意味になっている。そうして今を生きている。


 ――――薄情なことに。

 君がいなくてもやってこれた。君と一緒じゃなくても楽しいことに出会えた。
 君じゃない人を好きになって、君じゃない人と今をこうして生きてる。

 あの時選べなかった道の先は、何処に続いていたんだろう。

 けれどそれを考えるのは今じゃない。
 今はただ、この家路を真っ直ぐ歩いて行こう――――――。



〈終〉
墓参り4