(振り向くと、店主がお盆をもって私達に笑いかけていた。銀色に光る盆のうえにはポットとカップ、それにお茶菓子がのっている)
(どうやら温かいお茶を持ってきてくれたようだ)
(用意してもらったお茶を一口含むと、ふわんとはちみつの甘さが広がる)
ここはね、妻との思い出の地なんです。
(彼は「いつか」を懐かしむように目を細めた)
今はこの街もこんなに豊かになりましたが、私が若かった頃なんかはなんにもないところでしてね。
プロポーズするのだって、今の人のようにおしゃれな飲食店もないから雰囲気を作るのに随分困りました。
それで思いついたのがここです。
ここはこの街で一番空に近い場所。
夜になれば星に包まれる。
満天の星空の下、永遠の愛を誓う。なんて自分でいうのもおこがましいですがロマンチックでしょう?
(ふふっとお茶目に店主はウインクしてみせた)
それが功を制したのか、妻も私を受け入れてくれましてね。
それからここに家を建てて文具店を営みながら、ずっと暮らしてきたのです。
数年前に妻は病気でこの世を去りました。
でもね、この場所と私の中にある彼女の思い出さえあれば寂しくも悲しくもありません。
だって彼女は、ずっと私と共にあるとここで永遠の愛を誓ってくれたのですから。
貴方方は、漂流者、でしょう?
ああ、何も答えなくても大丈夫ですよ、事情は誰にだってあるものですから。
違う世界の人とこうしてお話しできるのも、またなにか一つの運命なのでしょうね。
長く生きてみるものです。
ささ、身体が冷え切らないうちにご用事をお済ませください。
名前:空神様
46歳
GOD
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