(目覚まし時計が軽快に朝を告げている)
(寒い空気の中へ腕を伸ばしベルを止めた)
(いつもどおり、着慣れた制服を纏ってダイニングへと降りる)


(……少しだけ気合いの入った朝食)
(同じ食卓を囲む両親は普段より言葉は少ないけれど、穏やかに応援してくれる気配が伝わってくる)
(受験票に筆箱、お弁当、気休めの参考書……鞄の中身をもう一度チェックして外へ出る)


(街には雪が珍しく降っていた)
(積もることはないが、身を切るような寒さが足取りをずんずんと重くする)
(会場となる大学へ向かう制服の群れが段々と大きくなっていく)
(皆どことなくふわふわしたような足取りだ)





(いつもチラリと眺め見るだけの時計塔を真正面から見る日が来るとは数年前までは考えてみたこともなかった)
(その威圧感に少しだけ心が怯む)




(予備校の勧誘であろうティッシュや鉛筆を配る人を横目にとぼとぼ歩くうちに見覚えのある姿が目に入った)
(心が弱気になっているから無意識のうちに頼れるあの人を思い浮かべてしまうのかと思い、迷いを振り切るように歩幅を大きくする)



おい。


(ダメだ、相当参っているらしい。幻聴まで聞こえてくるなんて)


おーい、流石に無視はキツイぞコラ。


(!? 声のする方に目線をやれば、頬をむんずと膨らませた彼がこちらに向かってくるところだった)

(菅野先生……!?本物??なんで?)




ハハハ、正真正銘本物の菅野先生だ。
可愛い教え子の応援に駆け付けねェ訳にはいかんだろ。




お前すっげぇ顔だなァ。緊張が服着てるみてェ。
ほれ、手ェ出せ。

(言われたとおりに手を差し出すと、カイロとチョコレートを渡された)


今日はっつーか、この時期はいつもだけど、指先まで冷えるからな。
凍えた指じゃ鉛筆も握れねーだろ。
ンでもってチョコは気分転換にでも食え。
糖分は頭の栄養だが、心の栄養でもある。なんてな。




〇〇。
俺はこの約2年間、家庭教師としてお前と共に歩んできた。

お前が今日までやってきたことは俺が全部見てる。
お前が負けず嫌いってこと、努力家だってこと、なんだかんだで勝負強いこと俺は知ってる。

だから、大丈夫だ。
思いっきり楽しんでこい。



(先生の表情はよく見るいつものさわやかな笑顔だった)





(先生に見送られ、歩みを進める)
(さっきはただ高くそびえ立つだけだった時計塔が、今度は私を迎え入れてくれる。そんな気がした)

名前:空神様
46歳

GOD

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